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ここはどこだろう
ついさっきまで日常を過ごし
ほんの一歩
見知らぬ扉をくぐっただけなのに
自分の息遣いさえ聞こえそうな静寂
…目の前は闇



フォーセリアの話をしよう。
古代王国が滅び、新王国あるいは『剣の時代』と呼ばれ500余年。
アレクラスト大陸の南に位置する大都市“オラン”
そこであった、ごく日常的な出来事を少し…


闇の中から
男とも女とも取れないコエが話しかけてきた
声のする方へ近づいて見ると
どんな仕掛けかわからないが
目の前に
オランの街並みが映し出されていた



とある貴族の家。
中々に立派な屋敷では数多くの雇われ者が働いているんだ。
ここで雇われている中で、最も人数が多いのはメイド、その中色々な意味で目立っている女性
…というには語弊があろうか…少女にしか見えないメイドがいる。
彼女は見た目人間の12・3歳くらいの少女。淡い栗色の髪は柔らかそうに波うち、
両の耳の脇でゆれている。その耳はよくよく見れば少しとがっている。
そう、彼女は好奇心旺盛なグラスランナーなんだよ。
名前は桜。
趣味はメイドごっこ(笑)
実は彼女、屋敷の正式なメイドぢゃ無いんだ。
シーフ技能を駆使して、お金持ちのメイドがたくさんいる家にこうして忍び込み、
他のメイドに紛れて日々メイド技能を磨いているんだって。
長年がんばったおかげか、趣味程度とは言えメイド1レベル所有者だ。
失敗して周りに被害が及ぶ方が多いんだけどね(苦笑)
ほら、ごらん。上手く紛れているみたいだよ…


声に導かれるかのように
目の前の風景が変わる



桜が何人かのメイドが忙しそうに働いているキッチンを覗くと
「ぁ、丁度よかったわ。今誰も手が離せないのよ、急いでコレ買ってきて」
と、少し年配の女性が紙切れを渡す
「はぁい!」
桜は元気よく返事をし紙を受け取ると活気溢れる市場へとかけていく…
向かった先は新鮮な野菜いっぱいの八百屋
いつも行くお店の前にはエプロンをつけた見知らぬ男性
桜はその男性に躊躇いもせず話しかけた
「お兄さん、コレくださいっ」
エプロンをつけて店先にいたのだ、当然のことだろう…が、
白髪の男は目の前の元気過ぎる少女(にしか見えない桜)を思わず見つめてしまっている
その瞳は燃えるような赤


再びコエ
不思議と心地よいその声は
どこかで聞いたことがあるようにも思う



白髪灼眼の彼、名前は暗駆と言うんだ。
他には顔立ちに特徴があるわけぢゃないからか、意外に印象には残らない。
本来は冒険者をしているが、今みたいに色々な仕事に手を出しているらしいね。
今回は八百屋か、エプロンが中々似合っている(笑)
彼はわりと長身だ。見上げる彼女の首が疲れてしまうほどにね(苦笑)
確か父親が武器商をしていたな。
彼自身も武器・防具のマーチャント技能5レベルを持っていたはずだ。
だけど彼、家を出てしまっているようだよ。それで色々な職を転々としているらしい。
ひとつの職に落ち着かない理由は・・見ていたらわかるかもしれないね…


何故だろう
目が離せなくなる…



暗駆が驚いた理由はただひとつ。
無愛想な自分に話しかける人間、しかも少女などいるはずがないと思い込んでいたから…
状況を理解した暗駆は紙を受け取ると書かれていたものを手際よく揃え、桜に渡す
「はぃお兄さん、お金だよぉ」
無愛想な暗駆に桜はニコニコと金を握り締めた手を差し出す
「ありがとうございました」
暗駆は、あくまでも事務的な様子で代金を受け取る
「ありがとー、またね〜」
それに少しつまらなそうにするが、急いでと言われた事を思い出し踵を返して駆け出す桜
 と、直後…
どしんっ!!どさっ、ばりっ!!!
「はにゅぅ!?」
「きゃっ!ご・ごめんなさいっ」
駆け出した桜はそのままの勢いで何かにぶつかり尻餅をついてしまった
メイド用の長いスカートからはヒールが20cmはありそうな編み上げブーツが覗いている…
ぶつかったのは逆から歩いてきたらしいオレンジがかった金髪の、眼鏡をかけた女性
数歩よろけた様だがこちらは慌ててがばっ!とばかりに頭を下げている


何でも見通すかのようなその声は
すべての人と知り合いであるかのように
親しみがこもっているよう



おやおや、またぶつかっているね…
彼女はフィエナ。フィエナ・スヴァンフヴィード・エレンディル
また本を読みながら歩いていたんだね、眼鏡を掛けたままだ。
眼鏡で目立たないが、髪と同じ綺麗な琥珀色の瞳をしているよ。
彼女は学者でね、セージ技能2レベルを持っているよ。
色々な種族のことや古代王国の文化を調べているようだね。
現地に行って見てくるためだろう、冒険者のようなこともしている。
頭は悪くないんだが、少し人見知りでぶきっちょなところが有るね。
そこがまた可愛いと言っている人もいるんだがね(笑)
欠点は貧乏なところ・・かな(苦笑)
今だって、ほら…


優しく導くような
それでいて決して逆らえない声



「す・すみません。本を読みながら歩いていたもので…」
「ぃたた・・またころんぢゃった。ごめんねぇ、急いでたから。んしょ」
お互いに謝りながら落としてしまった物を拾い集めていると
「ふぇ・・どーしよぉ…割れちゃってるぅ…お金余分に持ってきてないよぉ〜」
「え!?えっと・・すみません私もお金は……どうしましょう……」
おろおろするだけで二人ともどうすることも出来ずにいる
すると桜の目の前にずいっ、っと袋を突き出し
「今回だけですよ」
それだけ言うと桜に袋を渡し店の中へと戻っていったのは、間違いなく暗駆
きょとんとしていた桜も、袋の中身がたった今割れてしまった商品と同じものであるのを見ると
「お兄さんっ、どうもありがとぉ!!」
その背中に向けて笑顔で叫んでいた
上から、桜の持つ袋の中身を覗き込んだフィエナも状況を理解して
長身で白髪の彼に深々と頭を下げていた


どこか楽しむような


さて、これで3人。
偶然出会った彼ら。だけどこの出会いは必然。
だって、この世には必然でない偶然なんてないんだから…
さぁ、もうそろそろだ。
数日が経過しているはずだよ…


ただ無機質なような


「ぅー、メイドぢゃないってばれてお屋敷出されちゃったぁ…」
桜はうなだれた様子でとぼとぼと、本日の宿を求めて『風見亭』の前までやってきた
すると店の前の路を行ったりきたりしている女性が一人…
「ぁれ?この間ぶつかっちゃったお姉さんだぁ〜」
そぅ、女性はフィエナ
それに気付くと桜は先ほどとは打って変わって元気いっぱいに走り出した
「お姉さん、どうしたのぉ?」
その声でフィエナは桜に気付く
「あ、この間の・・すみませんでした」
「ううん、私も悪かったんだもん、謝んなくて良いよぉ。それより、お姉さんも泊まるの?」
再び深く頭を下げるフィエナにニコニコのままで風見亭を指差し尋ねると
フィエナは困ったように
「えっと、はい。泊まりたいんですが……」
なんとも歯切れの悪い返事である
それもそうだろう、フィエナの現在の所持金は銀貨がたった8枚しかない
泊まりたくても泊まれないために悩んでいたのだ
「ぅにゅ??ぢゃぁ、入ろ?私も泊まるんだぁ」
しかし桜はよくわからないままにフィエナの手を引き店の中へと向かってしまう
フィエナも振り払うことが出来るわけもなく手を引かれるままに店の中へ…
夕飯時には早く、昼のお客もはけた時間帯、店の中はがらんとしていた
が、ぐるりと見渡してみると端の机に男が一人
こんな時間から酒か・・と思いきや
よく見ると男があおっているのはジョッキでもグラスでもなくカップである。
中身はおそらく紅茶か珈琲だろう
何か呟いているようだ
(ぅーん、やはり長続きしませんでしたか。まぁ、今までもそうでしたしね。
しかし愛想が無いと言われて辞めさせられたのは何度目ですかねぇ……)
その男性にフィエナが気付く
「ぁ、この間の白髪の…」
「ふぇ?…………ぁっ、八百屋のお兄さん!」
一人だけの客は暗駆だったようだ
先ほどの呟きどおり、八百屋は既に辞めてしまっているのだが、
桜がそんなことを知るはずも無く元気よく駆け寄っていくと許可も得ずに向かいに座ってしまった
「お兄さん、ここ座らせてねー。この間はありがとぉ」
突然のことに驚く暗駆。しかしすぐに桜を思い出したようで、座ったことを特に咎める様子も無い
フィエナもあわてて桜を追いかけ、遠慮がちに立っている
暗駆もちらりとフィエナを見るが特に何も言わず、一人分の席をあけると桜に向かって
「いえ、困っていたようでしたので」
「うん、とっても助かったよぉ。お姉さんも座ろっ」
「ぁ、はい。えぇっと、良いですか?」
「どうぞ」
「はい、失礼します」
フィエナにも桜にも、やはり事務的なことしか口にしてはいないが
先ほどまでと違い暗駆の口元には微笑が浮かんでいる
手に持ったカップは今し方空になったようで、手持ち無沙汰にしている
フィエナも落ち着かないようでそわそわと辺りを見回したりしている
そんな中、桜だけは何が嬉しいのか始終ニコニコと二人を見て…
「あたしは桜。グラスランナーだよっ。………」
自己紹介を始めた…


そこで画像は掻き消える
闇からは
とてもとても
懐かしい声



この後、3人はパーティーを組むことになり
初めての冒険に出かけて新米冒険者振りとチームワークの無さを見せ付けてくれたよ(苦笑)
その結果彼らは他人からは『ボンクラーズ』と綽名されるのだけど…


目の前は闇…
気付くと声は消え
ただの静寂
釈然としないまま
入ってきた扉をくぐると
日常へと戻っていった…




それはまた、別の機会にでも―――
editer:sacra
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